秘書が私にささやく、
――アダと云うのは英国種の牝牛なのです。私達|孟買《ボンベイ》在住の日本人にとっては珍らしい変り種にちがいないのです。今迄私達が土人街|印度《インド》家屋の油の濃い日本女(ここに住む日本髪の女が世界中で一等醜い女だということは貴方にも直《じ》きお分りになるでしょう)以外に恋の体力をあらわさなかったのに、たとえ英国種にしろアダは水際だった、いわば我々日本人にとって彼女は孟買のエンゼルなのです。印度の恋のビリダリアの花です。
彼があまり真剣なので私がわらい出す。すると彼は私を部屋の一隅に引張ってきて熱心に私の納得の行くように話しつづけるのであった。
――貴方がおわらいになるのも無理もないのですが、しかし赤丸平家は日本の独身者の集合所なのです。(孟買には若い夫婦者は皆無と云っていいのです。家庭の女には東洋の深い皺《しわ》が彫刻されたように滲みこんでいます)私達は最初土人街のネパール女のエキゾティズムに感歎するのですが、その感歎はまるで波斯《ペルシャ》をセイロンの旗立てた漁船みたいな潜航艇で潜航しているようなものなのです。次いで私達は街に出て、印度の花、欧風化された
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