ら私は貴女《あなた》を愛していたのです。そしていまもなお私の愛に変りのないことを知ってもらいたいのです。
――妾はルーマニア人と契約しただけなのです。ルーマニア士官の妾がパートナアであった間、彼の男の訓練があまりに深刻なので妾には感覚したり、知覚したり、思考したりする余裕がなかったのです。しかしY、妾が貴方に会ったとき、始めて感覚や知覚や思考ってものは直感からくるってことが分ったのです。妾は勇気を出して翌朝彼が提出した新しい契約を破棄してしまいました。それからのことは妾がさっきお話したとおりです。
――アダ、貴女は日本人が恋しくなったのでしょう。
――聞いてください、Y。妾は亜丁《アテウ》湾を横切って孟買《ボンベイ》に一路船が進行をつづけるころになると急にアラビア海に顔をうつしてお化粧を始めてしまったのです――。
突然パーシの夜の鶏が戸外で鳴き出すと、アダはいらいらして、その他に別に用事はないかと私にたずねる。私がなくてもよいうるさいほどの用事を彼女に申し出るとアダは一つ一つそれを諳記して窓から暗のなかに投棄ててしまうのであった。
私は少し興奮して孟買の私達の邂逅《かいこう》
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