の女になったのです。紅海では人々があまりに情熱的になるものだから妾は嘔吐をもよおしたほどです。
――アダ、僕はまた、貴女が金羊毛で故国の女王の詩を朗読するルーマニアの士官とゼノアの産児病院あたりへ身を殺しに行くのではないかと気づかったのです。ときによってジャズ・バンドがビビの音楽をやっているとき、死海の水に映って正気を失った士官に貴女が抱かれて、独逸仕込《ドイツじこみ》の接吻の洪水のなかで、彼奴がロメオとジュリエットの名台詞《めいせりふ》を彼がネロのようにそりかえって早口で喋舌るときは全く貴女を薄倖の踊子だとさえ思ったのです。その夜ルーマニア人が浮気の虫を……におろしに行った間、
「――おい、Y、今晩はおれにつきあえよ――」
と、貴女が云ったのです。それから寝室で始めて貴女が正体もなく酔ってるってことがわかったのです。それからまた夜半になって貴女が金羊毛[#「金羊毛」に傍点]の名にふさわしくないところがあるのに気付いたのですが、そのときには私はあの卑怯なルーマニアの暴漢のために、近東行きの列車に投げ込まれてしまっていたらしいのです。だがそのことにもまして私が云いたいのは、そのときか
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