インにたいしてすまないわ。
すでに、くるまが尾張町の交換地帯で停止していた。
――タイガーで支那料理はどう?
――そういえばタイガーの入口の電飾はにんしんした支那女の入墨《いれずみ》のあるお腹みたいだぜ。
ハイ・ヒルの靴を支那女の腹部に背をみせると、機械色のスカートのなかで小きざみに足並をそろえて彼女があるきだした。
――フジ・グリルのビフテキは?
――いいわ。
街のコーナーから灰色の影を消して彼氏と彼女はフジの二階にさっさと登って行った。そこの卓子《テーブル》の一隅にはパラマント・オン・パレードで男前を見せたかのマツイ翠声《すいせい》がお可笑《かし》な顔をしてスープをすすっていた。そう云えばさっきフジに面した舗道に汚い小型自動車が棄ててあった。マツイがこの小型フォードを操縦する手並を想像してスマ子女史は愉快になっていた。猫舌のアメリカ人がスープを睨《にら》んでいる。
いつのまにかスマ子女史の「彼氏浮気もの」は階下の電話口にやってきて四家フユ子を呼びだした。
「なにをしてるんだい、え? コオセットをはめてるところ………………靴下はもちろん黒檀《こくたん》色がいいよ、だが門外不出
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