氏のように正確なダンスでなくっても、もっとセンジュアルなのでもいいんだが、君から習いたいんだけど。
――それからどうするの。
――クリスマスの夜にそれを適宜に用いようと思うのだけど………………。
――妾忙しいわ。そんなことにかまってられません。
スマ子女史が苦《にが》わらいして立あがった。午前九時にやってくる月極のタクシーがすでに玄関わきで彼女の出勤を待っていた。
4
午後五時すぎに田村英介氏の部屋の卓上電話が、ジャバの女の快楽のときの悲鳴に似たときのこえをあげる。
受話器をとりあげる。スマ子女史のわらい声がこだまする。彼女が電話の気分を出そうためにいたずらにフォックス・トロットをかけている。「ハロー」「うん――。」「なにをしてるの?」「近代生活を読んでいる。」「妾、銀座へ夕餐《ディナー》をとりに行くのよ。」「どうぞ…………」「君つきあってくれない。」「O・K」「そんならタクシーで誘いますよ。」
タクシーが日比谷かいわいまでやってくるとスマ子女史はハンド・バッグから口紅をとりだしてお化粧をはじめた。
――おしゃれかい。
――そうよ、口紅ぐらいつけなくちゃネオン・サ
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