きたらしいわねえ。いいわねえ。カフェーでもいれますか?
――ありがと。
スマ子女史はワイシャツの縫目からミス・フランセのコバルトの細巻をとりだして火をつけると、蒸気のこもった部屋に水沫《すいまつ》のように緑色の煙を吐き出して、
――だが、人に聞くと君はちかごろ恋のテクニックに夢中なんですって? ほんと?
――うそだよ。
カフェーを沸かしながら彼女は卓上電話をとると、麹町にある彼女の経営している店に電流を通じて、その日のスケジュールをつくるために店員たちと約束客の時間の繰合わせについて打合せを始めた。
午前九時前であった。
――ちょいと君はこんどのクリスマス・イブには妾になにを贈ってくれる?
――精神的なものを――。
――じつはね、妾、君にクリスマス・プレゼントしたいのよ。なにがいい。
――僕は――ね、楢原氏や久能氏がダンスするだろう。あの素晴らしい光景をみているうちにすっかり踊子のもつ魅惑に蠱《まど》わされてしまったのだ。
――あら、それがどうしたっての? もっとも楢原さんのダンスは玉置さん仕込みだけあってボールが板の間についていてわるかぁないけど。
――僕はね、あの小説家の楢原
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