も、これは君の決心を必要とすることだわ。
――やあ、あらたまったな、なんだい。
――妾たちいまはパパからお金もらって生活しているでしょう。それなのに君は小説家志願でいつになったらお銭《あし》がとれるようになるかわかんないでしょう。だから妾、発奮して美容術を習って二、三年後になって君と妾とだけの生活の道をつくっておきたいと思ったので、じつは丸の内の山根さんのところへ二年間内弟子にしてもらうことに決めたわ。
――やあだが、承知するが、パパは君が美容術をやることは反対するね。
――ママが泣いちゃう!
そして、数年後、田村スマ子女史は山ノ手の彼女のビュテイ・サロンで勇ましく朝から夜まで働いた。
2
ストリート・ガールであった、鋪道《ほどう》のアヴァンチュールにかけては華やかな近代娘の典型であった四家フユ子が、赤い梯子《はしご》を登ったのだ。
粋な銀座の裏街のホテルの一室で――ええ、そうよ。妾は浮気が商売よ。と、当代の男性にとっての理想の女性は脚部の肉色のデコルテを紊《みだ》して云った。
いままでソファの底に沈んで、情婦のつくってくれたあたたかいラム・パンチをのんでいた田村
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