行きますなどと夫婦でいさかうようなことをしたことがないのだ。
スマ子女史は英介氏と結婚して東京の郊外に文化住宅を借りて棲《す》んだところ、最初に彼女を煩悶さす事件があった。それは英介氏のむかし馴染みの女友だちがたずねてやってきて、英介氏を郊外の酒場へさそったり、彼女たちのアパルトマンでポーカーを一晩中やったり、英介氏にタキシードを着せてテッフィン(レストラン)に連れだしたりしたからだ。
そんなときスマ子女史は、彼女の「彼氏浮気もの」を待つあいだを英語の勉強をしたり寝台のうえで体操をしたり日本の作家の有名な小説を読んだりしているが「彼氏浮気もの」が、にこ/\わらいながらかえってくれば、悦《うれ》しくなって、なにしろ彼は可愛いいので、だがすこしばかり眼に涙をためて、
――おかえり! 英ちゃん! 君が妾を待たすなんてけしからんなあ!
――ごめんね、これからは二どと、あんな女とでかけないよ。僕ぁ、よくなかったね。
――うん、いいんだよ。だが、君ぁ、たちのよくない子供だと妾思うわ。
ところが、ある日のことスマ子女史はつねとは違真面目な顔をして英介氏に云った。
――妾、いいこと考えたのよ。で
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