です。「花子《アナコ》の首」は絹の小蒲団に載せて、バルザックの寝巻姿の傍におかれました。そして「花子《アナコ》の首」が完成されると、ロダンさんの製作欲と老年の力は、見る見る衰えて行きました。その後再び一座を組織した妾は、欧洲を町から町にさすらって歩いたのです。――ドーバーの港が見え出すとロダンさんはしきりにオテル・ド・※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ロンの彫刻室を懐かしがって、再び危険な巴里へ帰ると云って、ロオズ夫人を困惑させていらっしゃいました。妾達がロンドンに着いて間もなく、ジョッフル将軍の智略によって、マルヌの一戦にフランス軍が大勝利を得たことをきいて、巴里に残した二つの魂に対する妾の不安はなくなりました。そしてロダンさんは伊太利へ生涯の最後の旅行をなさったのです。ロンドン停車場に於ける別離が妾達の永遠のお別れとなったのです。妾はロオズ夫人の御好意によって、現在の胡月を経営することになり、ロンドンにとどまることになりました。一九一七年一月二十八日、ロダンさんは自分の死期をお知りになったのか、オテル・ド・※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ロンのバルザックの像と花子の首の前
前へ 次へ
全31ページ中27ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
吉行 エイスケ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング