バルザックの寝巻姿
吉行エイスケ

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)倫敦《ロンドン》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)|小さい花子《プチト・アナコ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]
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     花子の首

 一九二四年の倫敦《ロンドン》の冬は陰気であった。私はユーストンの地下鉄の乗換場附近にある玄関に、日章旗を交錯した日本料理店胡月の卓子《テーブル》で、外交官の松岡、画家の山中、トンテム・ハム・コートの伊太利《イタリー》料理店の主人と暗い東洋風の部屋で、日本食の晩餐《ばんさん》後お互に深い沈黙に陥っていた。外は倫敦の深い霧が立ちこめて、青い幻灯の街路を、外套の襟に顔をうずめて各国の女が相変らず男から男に身を売って、凍った地面を高い踵《かかと》で音楽のように敲《たた》いて行ったり来たりしていた。支那人の給仕人が丸太作りの灰色の窓を閉《とざ》すと、客のない閑散とした部屋々々は妾《わたし》達
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