手によって、玉の転げる音と共に消えてしまいました。だが、又しても妾は、そこで惨《みじめ》なジョージ・佐野の地獄に墜ちたような姿を見るのでした。彼は妾達には気がつかないようでした。佐野は最後の百|法《フラン》をルーレット係に渡して白札を求めているのです。それから彼は足許《あしもと》に落ちた空《から》の財布を踏んで、つかつかと賭博台《とばくだい》の前に進んで行きました。そこには三十九の無気味な機会《チャンス》が彼を待っているのです。妾は神経が昂《たか》ぶるのを抑えて、彼が持った小判型の象牙札を見詰めていたのです。佐野は血の気を失って、この世のものとは思えないほど、宗教的な顔をしていました。妾は遂に、彼が精神的な賭博を開始していることを知りました。その瞬間小判型の象牙札が投げられて、三十九の機会が賭博台から転げ落ちました。ジョージ・佐野は喪心《そうしん》して夢遊病者のように部屋から出て行きました。そして妾は、モナコの賽《さい》の目に現れる妾自身の運命に対して、不吉な予感をその時感じました。
翌日、モナコの華美な海浜の妾達の芝居小屋は、世界各国の観衆で一杯でした。開幕前妾がひどく打萎《うちし
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