そうした男心がなさけなくなりました。
 その日の夕方、雑然と旅衣裳の散らばってる妾達のユーロップ・ホテルの居間の電鈴がさびた音を立てました。スイス・ホテルから電話でロダンさんが妾の後を追ってモナコにいらっしゃったことが分りました。その間妾は絶え間もなく、心の不安に襲われていました。ルーレットのモナコ、悪徳の町、三十九の機会《チャンス》の町、妾の運命、そんなとりとめのない頽廃《たいはい》した意思が妾を支配していたのです。妾はロダンさんと、花匂うモナコの浜に沿って、心の悲劇を象徴するような大寺院の賭博場《カジノ》に向って、馬車を走らせました。モナコの王国、円い月のかかった二つの塔の前で、黒と紅と金に装い凝らしたモンテ・カルロの巡査が、ユーロップの草花の前で澄まして直立していました。この専制君主的な儀礼の門を潜って、ロダンさんが事務所で入場券をお求めになると、妾達はこの悪徳による王国の財政の基礎の中に這入って行ったのです。
 ロダンさんは心持ち若返っていらっしゃるようでした。妾は未来の運を、ロダンさんの頑健な腕と異常な人格にお委《まか》せしました。タキシード姿の役人が、奥のホールの奏楽場に妾
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