よって、極端な誤解をしているのではないであろうか、妾は思わず妾の眼の前に、暗い未来が流れているような気持になるのです。妾の番犬は妙に落着きを失って、部屋の隅から隅を嗅いで廻っていました。妾は一処《ひとつところ》にじっとしているとひどく不安に襲われるものですから、立上ると、まるで発作を起した女のように、部屋の中をぐるぐると廻りました。そのうちに、妾は急に何ものかに封じられているような可笑しさを覚えて、寝床に顔を埋めて笑い転げました。だが、再び妾は妾の声に怯えて立上ると、狂気のように衣服を脱いで裸体になると、姿見の前で妾の肉体を映して見ました。妾はロダンさんの鑑賞力を吟味するような気持で、優美に作られた妾の小さな胸、強いカーブを持った臀《しり》、欲求に満ちた東洋女の顔にみとれながら恍惚となっていたのです。と、突然、妾の番犬が、妾が戦慄《せんりつ》するような呻《うな》り声を出して、外部の暗《やみ》に向って吠出したのです。その時妾はふと、夜陰の無花果《いちじく》の木の下に潜む、黒衣の人間の険悪な顔を姿見に認めて、恐ろしい悲鳴をあげました。すると、時を同じうして、寝室の扉が音もなく開いて、ロダン
前へ 次へ
全31ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
吉行 エイスケ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング