ンさんに連れられた妾は、アンヴリイドの停車場から数十分で、ムウドン停車場に下りました。駅には下男とロダンさんの古い馬車が妾達を待っていました。そこから、だらだら坂になっているアカシア並木の赭土《あかつち》の途を揺られながら、ペル・※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ュウ村の木立の上に風車の廻っているロダンさんの粗末なお宅につくと、薔薇園の木戸口に肉体の彫刻的に締った、銀髪のロダン夫人が立って、妾を迎えてくださいました。
 晩餐後、妾達は静かに身上談《みのうえばなし》などをして、夜を更かしたのです。ロダン夫人のロオズさんは、妾の持っていた舞扇の影に、さも東洋の神秘でも隠されているように、いろいろと日本の古代の物語などを妾から聞いて、異郷の地を想像していらっしゃったようです。夫人はほんとに沈着な立派な方でした。夜が更けてロダンさんは一匹の番犬を連れて、離れの二階の寝室に妾を案内していらして、犬と妾を部屋に置くと、母屋の方に下りていらっしゃいました。
 妾は一人になると、ソファに埋れて、昨今佐野と妾との内部に萌《きざ》した不和について考えると憂鬱になるのでした。もしかすると佐野は深い臆測に
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