のです。妾は、憂鬱なロダンさんを知る事が出来たのです。一つの偉大な芸術家が無智な妾の魂を抜去った強大な力を、妾は感ずることが出来たのです。
 これが寝巻姿のバルザックの像でした。――
 ロダンさんは中年時代、シャトウ・チェリイから出て来た女弟子のカミイユ・クロオデル嬢との恋愛の破綻《はたん》によって、思索上にもロダンさんの生理学にも余程の変化があったのだそうです。それは製作の上にも現れて、一八九○年ゾラを会長とした文芸家協会からオノレ・ド・バルザック像の依頼を引受けると、当時バルザックにひどく心酔していらしたロダンさんは、バルザックの裡に二つの人格を認識すると同時に、ロダンさん自身にもバルザックの作品「ラ・セラフイタス」を通じて、心霊界の象徴的な思想があったのです。ロダンさんは、バルザック像にオウギュスト・ロダンを表現しようとなすったのです。ロダンさんの驚嘆すべき精力を傾けたバルザック像は、一八九八年前後、八箇年の努力によってサロンに出品されたのです。バルザック像は、最初着衣より裸体像に、そして再びバルザックの肉体を包んだのが、寝巻だったのです。その寝巻姿のバルザック像がサロンに出品さ
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