していらっしゃったのが、突然、歓喜の声をあげて妾に仰有ったのです。
「愛する|小さな花子《プチト・アナコ》。少し貴女に見て貰いたいものがあるのだ。」
そう仰有《おっしゃ》ると、ロダンさんは別室から、等身大の彫像を奇蹟的な偉大な力で、妾の前に引摺《ひきず》っていらっしゃったのです。妾はその彫像を見ると、妾に何ものかが唯心的な理解力を生んだのです。妾はロダンさんの芸術を微《ひそ》かながら、妾の心の奥底に感じることが出来ると同時に、この老いた彫刻家に妾は自分の心を与えることが出来たのです。ロダンさんは希望に輝いて妾の肉体に表徴される内部的な動きを描き出したのです。妾は眼の前に空虚な袖の垂れている寝巻に包まれた巨大な人間の像を見たのです。彫刻の寝巻からあらわれた裸《あらわ》な胸部の女性らしい形態、そして頭部に於ける肉の強調、醜いが人を魅する悪魔的な眼付、何物かを触感しようとする肉感的な唇――男性の夜半に眼覚めて攪乱《かくらん》されて眠れず突然現れた思想を追求しようとするいたましい人間の姿、この激情的な、感激的な、空想的な、偉大な彫刻の中に、ロダンさんが枯れて自己となっていることを、妾は知った
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