仮名ヰ、1−7−83]ロンから車がゲエテ街にやってくると、妾は愛人の側から離れて、何者かに魅せられたように車の人になってしまったのです。オテル・ド・※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ロンの鉄門が見え出すと妾は佐野の亢奮し、やつれた顔が車窓に映るような気がして、慌てて車内の空隙《くうげき》に現れた心影を妾は払いました。
妾がアトリエに這入ってゆくと、ロダンさんは眼を血走らせて、部屋を乱暴に歩いていらっしゃいました。そして、妾は製作台の上に削られた大理石の女の肢体の置かれてあるのに気が付いたのですが、妾にはそれが頑健な小猫のような肉欲的な女に思われたのです。だが、その瞬間に、妾はそれが昨日妾が気を失ったときの肉体のポーズであることに気が付きました。ロダンさんは妾を見ると、子供のように嬉しそうな顔をして、すっかり落着いて、妾の用意の出来るのを待っていらっしゃるのです。妾が昨日のようにモデル台に立つと、ロダンさんは、今日の妾の姿態が大変お気に入ったようでした。それから夢中で製作台の削られた大理石の女の肢体を凝視していらっしゃるのです。まるで彫像に妾の精神を映そうとする錬金術師のように熱中
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