、喜悦をお伝えになったのです。部屋の壁には北斎の絵が、美しい額縁に入れて架かっていました。
 翌日、ロダンさんの彫刻のモデル台に妾は立たされました。ロダンさんは妾の裸体をお求めになったのですが、妾はウェイスト・クロスだけはとることは出来ませんでした。ロダンさんは、お老年《としより》のせいもあったのでしょうが、エロチックってことを少しも恐れないようでした。それから妾のポーズをお作りになって、製作台にお立ちになったロダンさんは人格の変った方のように、妾には感じられるのでした。ロダンさんの厳粛な意欲の中で妾は自分の肉体の秘密も感受性もすべてを知られてしまったような恐しい気持になったのです。まるでロダンさんは、妾の肉体に神秘な思想を求める哲学者のように、殆《ほとん》ど狂気に近い熱心さで、妾から眼をお放しにならないのです。妾は抵抗することの出来ない程、精神に疲労をうけて、偶像のようにモデル台に立っていたのですが、それから間もなく気を失ってしまいました。
 その翌日ジョージ・佐野は、妾がアウギュスト・ロダン氏のアトリエへ行くことに反対しました。併しいつもの時間になって、オテル・ド・※[#濁点付き片
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