たのですが、ジョージ・佐野はそれについてとらえ難い不安に襲われていたようです。妾達の列車が巴里盆地にさしかかると、佐野は何の理由もなしに、巴里を極度に嫌がって、バルセロナを懐しがったりして、女のように神経質になっていました。そんな訳で、妾達の愛情はひどく病的になって行ったのですが、妾の佐野に対する愛に変りはありませんでした。
或日、ゲエテ街の安宿に、ロダンさんのお迎えの車がやって来て、妾はオテル・ド・※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ロンのアトリエに連れて行かれました。妾が出てゆく時佐野はふさぎの虫にとりつかれていたようですが、妾が車に乗ると窓から恐ろしい眼をして、じっと私を睨んでいました。有名なオテル・ド・※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ロンの歴史的建築物の薔薇の花の絡んだ鉄柵の小門を潜って、右手の階下のロダンさんのアトリエに妾は案内されました。部屋は大理石像の一群に囲まれて、ロダンさんは秘書のマハセル・チレル公爵夫人と、何かお仕事をしていらっしゃいましたが、その公爵夫人が部屋からお去りになるとロダンさんは壮年のような若々しさを以て、妾の小さい肉体を、あの頑健な腕で抱えて
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