芸術論

 つぎに、芸術について一言すれば、芸術は畢竟人工的に美の理想を実現するにあるので、自然美に対すればその進歩は比較的はるかに迅速である。芸術美と自然美とにかかわらずすべて美は主観的のもので、けっして客観的のものではない。しかし美が単に主観的たるにとどまっていては、芸術は成立しない。諸種の材料をかりて美を客観的にあらわすに当って芸術が成立するのであるが、芸術は単に快感の客観化されたものではない。快感を超越した要素がなくてはならぬ。もとより崇高、深遠、幽邃、壮大、雅麗等の諸性質はそなえておらなければならぬが、また超快感的の気韻情調の観るべきものを必要とする。すなわち人を引いて彼岸の理想境に入らしむる底の魅力がなくてはならぬのである。しかし芸術の原理を功利的に見る一派がある、その説によれば芸術はいかにしても功利的に制限されるものである。社会の要求により、経済の状態によって制限されるもので、芸術家もその要求に応ずるような態度に出でて、その要求の向うところに発展をとげる。かようにして芸術は畢竟功利的に制限され、客観的にその性質を規定されるもので、主観的にいかに高尚な理想があっても発展の遂
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