るべきである。このことについてはかつて『哲学雑誌』にある程度までは論じておいたつもりである。
四 道徳論
道徳は前に述べたかの知能欲によって起るもので、その本源は生得的である。しかしもとより諸種の経験教養等によって発展を促されることはもちろんである。知能欲によって発生してきたところの道徳的要求は畢竟人格の完成にあることはいうまでもないが、人格完成は道を体現するによって可能となるのである。道はロゴスである。道は無形のもので、形而上的である。永遠無窮でしかして絶対的である。この永遠無窮の道を体現すると然らざるとによって、聖凡の差異が生じてくるのである。聖人の人格の永久価値を失わないというのは、永遠不滅の道を体現するからである。道はすなわち理想である。人間は理想を実現して進むのであるが、完全にその理想を実現しうるということは、なかなか容易でないけれど、ある人格者は極めて稀なる場合であるけれどもほとんどそれを完全に実現して絶対無限の意識状態に到達したのである。それは孔子だの、仏陀だの、クリストだの、ソークラテースだの、そういう後世に模範を垂れた古今の聖人である。聖人といえどもその人
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