また火山灰を原料に用うればよほどよく海水に耐えるという事である。

      銅鉱の電気分解

 墺国《オーストリア》の某鉱山では近来銅鉱から純銅を採るのに電気分解法を用いているそうだ。そのやり方はというと、先ず鉱石を粉砕し、湿った粘土と混じて焼けば硫酸銅と酸化銅が出来る。これをまた砕いて五プロセントの稀硫酸液に入れ大きな桶で電気分解をやる。陽極には大袋に亜鉛を入れたものを用い、陰極には銅板を用い、二・五ボルトの電圧で千アンペアの電流を通すと陰極の方へは純銅がだんだんに附着し、陽極には硫酸と酸素が出て来る。一時間に一キログラムの銅を得るためには約三馬力に当る電力を要する勘定になっているそうだ。この法で得た銅は非常に純良である事は勿論である。
[#地から1字上げ](明治四十年十月三十日『東京朝日新聞』)
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         三十

      水底信号機

 霧の深い海上を航海する時には、往々海岸や他船の近づいた事を知らずにいて坐礁や衝突の災を招く事がある。これを防ぐためこの頃行われ始めた方法は、海岸ならばそこに繋留した灯台船の底に鳴鐘《ベル》を附け、不断《ふだん》これを鳴らしている。船の方では船底に仕掛けた微音機《マイクロフォン》でこの音を聞くという細工である。目下大西洋並びに沿岸航路でこれを使用している灯台船が五十六艘、汽船が二百十艘ある。英皇およびドイツ皇帝の遊船《ヨット》にもこの装置を備えてあるそうだ。
[#地から1字上げ](明治四十年十月三十一日『東京朝日新聞』)
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         三十一

      世界一の高圧電流

 米国ミシガンのマスケゴン電力会社で昨年来使用している高圧電流は七万二千ボルトの高圧でけだし世界第一と称せられている。その電線の経路九十二マイルの間は近辺の樹林を切り開き、また人の近づかぬように不断|巡邏《じゅんら》している。何しろ非常な高圧であるから漏電を防ぐ絶縁器には特別のものを用いているが、それでも多少の放電が止みなくある故、柱の一部がだんだん焦げて来るそうである。一度落雷のために絶縁器がこわれた時などは、電柱は強い電流のために即座に焼けてしまった。この電線に障害を与えた者は一年間の禁錮に処せらるるという事である。

      地下電車鉄道の衛生問題

 地下鉄道で長い間|隧道《トンネル》内の空気を呼吸するのは衛生上有害ではないかという事を近頃ニューヨークで調査した。隧道内の空気中にはレールや機関の摩擦のために生ずる微細な鉄粉がかなりに浮游しているが、これは案外人体を害《そこな》わないそうである。むしろ坑内の温度の急変が健康に悪いだろうとの事である。
[#地から1字上げ](明治四十年十一月一日『東京朝日新聞』)
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         三十二

      有益な鼠

 北米に産する地鼠の一種に尻尾《しっぽ》の短いのがある。この鼠は蝸牛《かたつむり》などを捕って食物とし、余った外は貯えておいて欲しい時に出して食い、殻は巣の内外に積んでおく。また作物を荒らす有害な野鼠や虫類なども捕って食うので農夫にとっては非常に有益なものだそうな。
[#地から1字上げ](明治四十年十一月八日『東京朝日新聞』)
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         三十三

      世界第一の巨船

 現今世界で最大最速の汽船ルシタニア号は去る九月アイルランドのクイーンスタウンよりニューヨークまで二千七百八十二|浬《かいり》の航路を五昼夜と五十四分間に、すなわち一時間二十三浬〇一の速度で快走した。先年ドイチュランド号が二十三浬一五の速力を得たに比較して少々劣るようであるが、これは途中で霧に逢うたためだとの事である。今より二十三年の昔出来たアンプリア号という当時での巨船に比較すれば実に非常の進歩である。船の長さは五割も長くなり、トン数は三倍の余に達し、機関の馬力は五倍に届いたが、ただ速度のみはこの割に増す事が困難で二割五分くらいしか増していぬ。
 ルシタニアは首尾の長さ七百六十フィート、幅八十八フィート、高さが六十フィート余と云えばずいぶん大きなものである。排水トン数は三万八千トンで、一航海に要する石炭が五千トン。それから機関はタービン式で六万八千馬力出る。千五百トンの荷物と二千二百人ほどの乗客の外に船員の数が八百二十七名と称している。
[#地から1字上げ](明治四十年十一月九日『東京朝日新聞』)
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         三十四

      北極探検気球隊の消息

 気球を利用して北極を探検せんと企てたウェルマン氏の一隊は志を遂げずして去る九月ノルウェーに帰ったそうである。始めフォーゲルベー島まで船で進み、そこで気球を浮べたが生憎《あいにく》吹雪の風が烈《はげ》しく
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