を分類するとおよそ十種類のおのおの異《かわ》った仕掛けで出来ているそうな。そしてこれらの発光器は大抵みな腹の方ばかりにあるので、深海の底を照らしながら食餌《えさ》を捜し歩くには都合のよい探海灯の用をするのだろうと思われる。
[#地から1字上げ](明治四十年十月二十一日『東京朝日新聞』)
(三)熱の無い光線
如何なる作用で光を発するかという事はまだよく分らぬ。しかし一つ注意すべき事は、この種の発光器は大抵光線を出すばかりで熱を出さぬ。これに反して人工的の光ではいつも熱が伴うて起る。六かしく云えば機械力なり電気なりまた化学作用なり如何なる方法によるも熱くない光を作る事は出来ぬ。つまり使ったエネルギーの一部は必ず熱に変じて消費される、すなわちそれだけ余計な勢力を損している。しかるに造物者の手製の深海のランプはかくのごとく理想的に経済的にしかも美術的に出来ているのである。
[#地から1字上げ](明治四十年十月二十二日『東京朝日新聞』)
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二十四
水雷破壊器の発明
今度米国政府のためにアンリ・スタンフィーバンという仏国人が敷設水雷《ふせつすいらい》を破壊する器械を発明し、実地の試験をしたが好結果を得たという。しかしその器械の構造は勿論一切を極秘密《ごくひみつ》にしているから分らぬが、とにかく磁力を利用したもので、これを載せた船の向かう処一定の距離にある沈設水雷をことごとく爆発して無効にするそうである。
[#地から1字上げ](明治四十年十月二十五日『東京朝日新聞』)
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二十五
火星の近状
今年の夏、火星が我が地球に最も接近した位地に来ていた頃、米国のロウエル天文台ではこの好機会を利用して種々の観測をした。その結果この星の表面を縦横に走っている運河のようなものが南北両極の氷塊の消長につれて隠見する有様が仔細に知れた。その模様を見ると火星の上にはどうしても智能を備えた人類のごときものが棲息していると考えざるを得ないと該天文台長のロウエル氏は断言している。また同台からは一隊の学者をアンデス山頂に派遣して火星の写真を撮らせたそうであるから、定めて有益な知識を斯学《しがく》の上に齎《もたら》す事であろう。
[#地から1字上げ](明治四十年十月二十六日『東京朝日新聞』)
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二十六
風向《ふうこう》と漁業
英国南西部の海岸で年々にとれる魚の総数を漁夫の数に割り当てて統計してみると、漁夫一人の漁《りょう》する数が年によって著しくちがう。その原因を詳しく調査してみると、これは全くその年々の平均の風向によるものだという事が知れた。すなわち風が多く沖の方へ吹く年は海岸の潮流も陸を遠く距《はな》れ、魚類の卵は逃げてしまうのでその後は不漁がつづく。これに反して風が潮流を陸近くへ吹き送れば自然に漁が増すのだそうである。
[#地から1字上げ](明治四十年十月二十七日『東京朝日新聞』)
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二十七
蟻《あり》の知覚
蟻が温度の変化に対してどれだけの感覚力をもっているかという事を調べた人の説によると、大抵の蟻は摂氏の〇・五度くらいなわずかな変化でも識別するそうである。また人間の眼には見えぬ紫外光線でもよく感じ、この光を当てると嫌って逃げると云っている。
恐水病の予防
昨年中パリのパストゥール免疫所で狂犬に噛まれた人のために恐水病予防の注射を行うた件数が七百七十三、その中で不幸にして該病のために死んだのはわずかに二人しかない。すなわち恐水病というものはほとんど全く予防する事が出来ると云ってもよい。
[#地から1字上げ](明治四十年十月二十八日『東京朝日新聞』)
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二十八
癌腫《がんしゅ》の研究
英国では帝室の保護の下に癌の研究のみをやっている所がある。その基本金の現額は十一万八千余ポンドで、そのうち四万ポンドは某富豪が金婚式の際に寄附したそうである。ここの所長のパシュフォード博士が近頃報告したところに拠れば、癌の療法と称するものは色々あるが、いずれもあまり確実な効験はない。評判のあったトリプシンもあまりきかぬ。今日のところやはり外科手術で患部を取り去る外はあるまいという事である。
[#地から1字上げ](明治四十年十月二十九日『東京朝日新聞』)
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二十九
海水用セメント
普通のセメントは長く海水中に在れば次第に分解して崩れるので、これを防ぐ方法はないかと色々研究した人の説によれば、少量でも礬土《アルミナ》を含んだセメントはこの分解が急に起りにくい。
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