の職人まで寄り集まって盛んな祝いであった。近親の婦人が総出で杯盤の世話をし、酌《しゃく》をする。その上、町から芸者を迎えて興を添えさせるのが例なので、この時も二人来ていた。これも祝いのあるうちは泊まっているので、池の向こうの中二階はこの芸者の化粧部屋《けしょうべや》にも休憩所にもまた寝室にもなっていた。
 夕方近くから夜中過ぎるまで、家じゅうただ目のまわるほど忙しく騒がしい。台所では皿鉢《さらばち》のふれ合う音、庖丁《ほうちょう》の音、料理人や下女らの無作法な話し声などで一通り騒がしい上に、ねこ、犬、それから雨に降り込められて土間へ集まっている鶏までがいっそうのにぎやかさを添える。奥の間、表座敷、玄間とも言わず、いっぱいの人で、それが一人一人にお辞儀をしてはむつかしい挨拶《あいさつ》を交換している。
 その混雑の間をくぐり、お辞儀の頭の上を踏み越さぬばかりに杯盤|酒肴《しゅこう》を座敷へはこぶ往来も見るからに忙しい。子供らは仲間がおおぜいできたうれしさで威勢よく駆け回る。いったい自分はそのころから陰気な性《たち》で、こんな騒ぎがおもしろくないから、いつものように宵《よい》のうちいいかげ
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