のようなものの付いた兜形《かぶとがた》の帽子を着た巡査が、隊の両側を護衛している。 
 巡査がどれもこれも福々しい人の好さそうな顔をしているのに反して、行列に加わっている人達の顔はみんなたった今人殺しでもして来たように凄い恐ろしい形相《ぎょうそう》をしている。家畜の顔を見ていると、それがだんだんにいつかどこかで見た事のある人間の顏に似て来るような気がする。そしてそれがみんないかにも迷惑そうな倦怠しきった表情をしているのである。
 広場のところまで来ると行列が止まった。そして家畜を中心にして行列の人と見物人とが円陣を作った。
 行列の一人が中央に進み出て演説を始めた。私は一所懸命にその演説者の言葉の意味を拾おうと思って努力したが、悲しい事には少しも何の事だか分らなかった。ただ時々イエネラール何とかいう言葉を繰返すのがやっと聞きとれただけであった。
 演説者は脊の低い男で、顔が写真で見たトロツキーによく似ていた。右の手を空気を切るように縦横に打ち振っては信じられないほど大きな声でどなっていた。時々左の手を家畜の方に差し延べては一種特別な訴えるような表情をして見せた。
 演説が終ったと見えて
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