寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)大理石の欄干《らんかん》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)やっとこ[#「やっとこ」に傍点]鋏《ばさみ》
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         一

 石の階段を上って行くと広い露台のようなところへ出た。白い大理石の欄干《らんかん》の四隅には大きな花鉢《ヴェース》が乗っかって、それに菓物《くだもの》やら花がいっぱい盛り上げてあった。
 前面には湖水が遠く末広がりに開いて、かすかに夜霧の奥につづいていた。両側の岸には真黒な森が高く低く連なって、その上に橋をかけたように紫紺色の夜空がかかっていた。夥《おびただ》しい星が白熱した花火のように輝いていた。
 やがて森の上から月が上って来た。それがちょうど石鹸球《シャボンだま》のような虹の色をして、そして驚くような速さで上って行くのであった。
 すぐ眼の下の汀《みぎわ》に葉蘭《はらん》のような形をした草が一面に生えているが、その葉の色が血のように紅くて、蒼白い月光を受けながら、あたかも自分で発光するもののように透明に紅く光っているのであった。
 欄干の隅
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