いる。
 近づいてみると、その棒のようなものはみんな人間の右の腕であった。
 私は何故かそれを見るとすべての事が解ったような気がした。
 鉄の鶴が向うの方で立ち止まって長い鉄の頸《くび》をねじ向けてじいっと私の顔を見つめていた。

         三

 高架鉄道から下りてトレプトウの天文台へ行く真直な道路の傍に自分が立っている。道の両側には美しい芝生と森がある。
 銅色をした太陽が今ちょうど子午線を横切っているのだが、地平線からの高度が心細いように低い。
 私はその時何という理由なしに「もういよいよ世の終りが近づいたのだ」と思う。
 向うの方から大勢の群集が不規則な縦隊を作って進んで来る。だんだん近づくのを見ると、行列の真先には牛や馬や驢馬《ろば》や豚や鶏が来る。その後から人間の群がついて来る。四角な板に大きな文字で何かしら書いたのを旗のように押し立てている人もある。大きなボール紙のメガフォーンを脇の下にぶら下げているものもある。
 豚や鶏は時々隊をはなれて道傍《みちばた》の芝生へそれようとするのを、小さな針金のような鞭でコツコツとつっついては列に追い返している男がいる。
 避雷針
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