いのに比べて、ポインセチアは次第に弱るように見えた。まっすぐに長い茎のまわりに規則正しい間隔をおいて輪生した緑の葉がだんだんに黄緑色に変わって来るのであった。水をやりすぎるためではないかと思われたから看護婦にも妻にもそう注意した。しかし積極的にさしずをするだけの知識はないからそのままに任せておいた。そのうちに葉は次第につやが無くなり、黄みが勝って来て、とうとう下のほうの葉が一つ二つ落ち始めた。残った葉もほんのちょっと指先でさわるだけでもろく落ちるのであった。何かしら強い活力で幹から吹き出しているように見えた威勢のよかった葉がきわめてわずかな圧力にも堪えず、わけもなく落ちるのが不思議なようにも思われた。このようにして根もとに近いほうから順序正しくだんだんに脱落して行くのであった。
S君がまたベコニアを届けてくれた。大きさは前にT君からもらったのと同じくらいであった。しかし前のに比べて花の色も葉の色もいったいに薄くてなんとなくさびしかった。そのかわりまたなんとなくあっさりした野の花のような趣はあった。同じ種類の花でありながら培養の方法や周囲の状況の相違でこれほどにもちがったものができるか
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