と思った。土の性質、肥料や水の供給、それから光線や温度の関係で同じ種から貴族と平民が生まれるのであった。花の貴族と平民とは物を言わないから争闘はない。こんな事を考えたりした。
次にはO君から浅い大きな鉢《はち》にいろいろの草花を寄せ植えにしたのを届けてくれた。中心になっているのはやはりベコニアで、その周囲には緑色の紗《しゃ》の片々と思うようなアスパラガスの葉が四方に広がり、その下から燃えるようなゼラニウムがのぞき、低い所にはアルヘイ糖のように蟹《かに》シャボの花がいくつか鉢の縁にたれ下がっていた。一つ一つの花はきれいであるがこのように人工的に寄せ集めたところになんとなく物足りない不自然さがあった。しかしともかくもにぎやかに花やかなものであった。眠られぬ夜中の数時間はこの花のためにもどれほどか短くされた。眠られぬままにいろいろな事を考えた中にも、N先生が病気重態という報知を受けて見舞いに行った時の事を思い出した。あの時に江戸川《えどがわ》の大曲《おおまがり》の花屋へ寄って求めたのがやはりベコニアであった。紙で包んだ花鉢をだいじにぶら下げて車にも乗らず早稲田《わせだ》まで持って行った。あ
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