」とかいうものも厳密には実現し得られない事も忘れてならない。長いガラスの円筒の直径をカリパーのようなもので種々の点で測らせ、その結果を適当な尺度に図示して径の不同を目立たせて見るのもよい。これはつまらぬ事件のようであるが、実際自分の経験では存外生徒の実験的趣味を喚起する効果があるようである。あるいは顕微鏡のデッキグラスの厚さを測微計で測らせ、また後に光学の部で再びこれを試験用平面に重ね、単色光で照らして干渉の縞《しま》を示すも有益であろう。
 液体静力学の実験例えば浮秤《うきばかり》で水や固体の比重を測る時でも、毛管現象が如何に多大の影響を有するかという事を見せるために、液面に石鹸の片を触れて比重系の浮上がる様を見せる事なども必要と思う。あるいは夏季水道の水を汲んだままで実験していると溶けた空気が出て来て器械に附着し著しい誤りを生ずる事なども実験させた方がよいと思う。
 その他「完全なる剛体」とか「摩擦なき面」とか「一定の温度」とか一々枚挙に遑《いとま》はないが、こういう言葉を如何に理解し如何に自然界に適用すべきかという事を実験の途中で漸次に理解させるが肝要であろうと思う。これを誤解す
前へ 次へ
全11ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング