俊正《つついとしまさ》君の実験で液滴が板上に落ちて分裂する場合もこれに似ている事が知られた。葡萄酒《ぶどうしゅ》がコップをはい上がる現象にも類似の事がある。
 剃刀《かみそり》をとぐ砥石《といし》を平坦《へいたん》にするために合わせ砥石を載せてこすり合わせて後に引きはがすときれいな樹枝状の縞《しま》が現われる。平田森三《ひらたもりぞう》君が熱したガラス板をその一方の縁から徐々に垂直に水中へ沈めて行くとこれによく似た模様が現われると言っている。写真乾板の感光膜をガラスからはがすために特殊の薬液に浸すと膜が伸張して著しいしわができるのであるが、そのしわが場合によっては上記の樹枝状とかなりよく似た形を示すことがある。また写真乾板上の一点に高圧電極の先端を当てて暗処で見るとその先端から小さな火球が現われて徐々に膜上をはって行く。その痕跡《こんせき》が膜の焼けた線になって残るのであるが、その線の形状がやはり上記のものと似た形を示している。それからまたガラス窓などに水蒸気が凝結して露を結んでいるのが、だんだん露の生長するにつれてガラス面に沿うて落下し始める。その際に露の流れが次第に合流して樹枝状の
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