はいずれも事がらが偶然的偏差に支配されるために、結果が決定的再起的でないような種類に属するものである。たとえばガラス板を平坦《へいたん》な台の上に置いて上から鉄の球を落として放射線形の割れ目を生ずるという場合に、板の厚さや、球の重量や落下の高さを一定にしてみても、生ずる割れ目の線の数や長さは千差万別であってなかなか一定しない。多数の実験を繰り返せば統計的にはおのずから一定の規則はあるにしても、一つ一つの場合にそれらの価を予測することは不可能である。これとよく似た場合はいわゆるリヒテンベルクの放電像である。これも陽像あるいは陰像のおのおのの場合に放射線の長さや数について統計的の規則は見いだされるが、個々の場合の精確な予想は到底できない。この二つの場合に何ゆえに対称的な同心円形が現われないで有限数の放射線が現われるか。これは今のところ不思議だと言っておくよりほかにしかたがない。
金米糖《こんぺいとう》を作るときに何ゆえにあのような角《つの》が出るか。角の数が何で定まるか、これも未知の問題である。すすけた障子紙へ一滴の水をたらすとしみができるが、その輪郭は円にならなくて菊の花形になる。筒井
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