物理学圏外の物理的現象
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)黎明《れいめい》時代

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)多年|藤原《ふじわら》博士

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から3字上げ](昭和七年一月、理学界)
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 物理学は元来自然界における物理的現象を取り扱う学問であるが、そうかと言って、あらゆる物理的現象がいつでも物理学者の研究の対象となるとは限らない。本来の意味では立派に物理的現象と見るべき現象でも、時代によって全く物理学の圏外に置かれたかのように見えることがありうるのである。
 物理学というものはやはり一つの学問の体系であって、それが黎明《れいめい》時代から今日まで発達するにはやはりそれだけの歴史があったので、その歴史は絶対単義的な唯一の道をたどって来たと考えるよりは、むしろ多くの可能な道のうちの一つを通って来たものと考えられ、その実際通った道を決定したものはやはり偶然の事情であったとも考えられる。ちょうどそれはナポレオンが生まれたか生まれなかったかにより、世界の歴史は違った内
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