題はしばらくおき、もう少し具体的な問題を取ってみると、各時代において物理学上の第一線の問題とみなされ、世界じゅうの学者が競って総攻撃をするような問題があり、そうしてその問題の対象物は時代から時代へと推移して行く。この推移の経路がはたして単義的なものであるかどうかという問題が提出されうるように思われる。これは少なくもある程度までは偶然的人間的な事情に支配されることは疑いないように思われる。たとえば電子波回折の実験がX光線回折の実験の行なわれたころにすでに行なわれたというような事も、それ自身において必ずしも不可能でなかったと思われるから、もしもそうであったとしたら、その後の物理学界の動きはよほど実際とは違ったものになったのではないかと想像されるのである。
それと同様に未来の物理学進歩の経路も必ずしも単義的にただ一筋の予定の道筋を通るであろうとは考えられない。将来なされうべきある二つの画期的な発見のどちらが先に行なわれるかは偶然的な事情によって左右されうるであろう。そういうわけであるから、今から十年後の物理学界を予想する事はいかなる大家にも困難であろう。いついかなる問題が勃興《ぼっこう》し
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