コンパニオンがほしい」とはなはだ深刻な皮肉を言う場面がある。
このごろ、のら猫《ねこ》の連れていた子猫のうちの一匹がどうしたわけか家の中へはいり込んで来て、いくら追い出しても追い出してもまたはいって来て、人を恋しがって離れようとしない。まっ黒な烏猫《からすねこ》であるが、頭から首にかけて皮膚病のようなものが一面に広がっていてはなはだきたならしい。それのみならず暇さえあればあと足を上げては何かを振り飛ばすような動作をする。ちょっとすわったかと思うと、また歩きだしてはすぐにすわる、また歩きだす。しょっちゅう身もだえをして落ち着けないように見える。一夜、この猫が天鵞絨張《びろうどば》りの椅子《いす》の上にすわっていたのを引きおろした跡に、何やら小さいもののうごめくのを居合わせた親類の婦人が見つけて、なおよく見ると、小さな蛆《うじ》のようなものが無数に天鵞絨の毛の中にもぐり込んだりまた浮かび出したりしている。どうも椅子《いす》から出たものではなくて、猫が落としたものらしい。
長年猫を飼っているが、こんな寄生虫を見るのははじめてのことである。
自分の頭から背中から足の爪先《つまさき》までが
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