る。そうして、それから後は現在までずっと薄くなったままで継続しているような気がするのであるが、事実はどうだかたしかでない。
とにかく、その突然の変化の起こったのは浜口《はまぐち》内閣の緊縮政策の高潮に達したころであったので、この政策と切符の紙質の変化とになんらかの連関がありはしないかと考えてみたことがあった。
事実はとにかく、このような連関は鉄道省とそれを統率する内閣とが一つの有機体である以上可能なことである。
いつか自分の手指の爪《つめ》の発育が目立って悪くなり不整になって、たとえば左の無名指の爪が矢筈形《やはずがた》に延びたりするので、どうもおかしいと思っていたら、そのころから胃潰瘍《いかいよう》にかかって絶えず軽微な内出血があるのを少しも知らずにいたのであった。
有機体ではいかなる末梢《まっしょう》といえども中枢機関と有機的に連関しているので、末梢の変化から根原の変化を推測することのできる場合も少なくないはずである。末梢的と言ってもうっかり見過ごせない。
有機体の中にその有機系と全然無関係な細胞組織が何かの間違いでできることがある。やっかいな癌腫《がんしゅ》はそういう反
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