逆者の群れでできるものらしい。有機系とはなんの交渉もないものが繁殖し始めるとその有機系の調和が破壊され、その活力が阻害され結局死滅する、それと同時にその死滅を促成した反逆者の一群も死滅することは当然である。
 国家という有機体にも時々癌腫が発生する。ひどくなると国家を殺すが、多くの場合に、その癌細胞自身も結局共倒れになって死んでしまうようである。
 癌のやっかいなことは外科手術で切り取ってもすぐお代わりが芽を出す。また手術をすると生命がなくなることもある。
 癌の発生する原因がまだよくわからないように国家の癌の発生する真因がまだよく突きとめられていない。それがわからなくては根本的な治療や予防はできるはずがない。癌研究所と同様に国家癌の科学的研究所の設立も今日の国家の急務であるかもしれないのである。

       十三

 九月中旬になって東京の街路を飾るプラタヌスの並み木が何か思い出しでもしたように新しい芽を出している。老衰して黒っぽくなりその上に煤煙《ばいえん》によごれた古葉のかたまり合った樹冠の中から、浅緑色の新生の灯《ひ》が点々としてともっているのである。よく見ると、場所によっ
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