拡散したとすれば、その系統あるいは同色の言語要素の密度は多少同心円形分布の形跡を生じてもよいわけである。たとえこの要素の等密度線がどのように変形しようとも、少なくも、その密度の傾度最大方向のトラジェクトリーを追跡して行けば、ついにはその源に到着、あるいは少なくも近づく事ができそうである。
ただ第一に問題となるのは、いかなる標準によってそのいわゆる同系要素なるものを識別しうるかという事である。これはもちろん難問題である。しかし幸いにして従来の言語学者の努力の結果は、この方法を漸進近似法(Method of successive approximation)によって進めんとする際にまず試みとして置かるべき第一近似の資料を豊富に供給してくれるのである。
この識別法を仮定すれば、次は密度の統計的計算が問題になる。前記の理想的の場合の「密度」が直接いかなる数に相応するかはこれもむつかしい問題であるが、少なくもその一つの計量《メジュアー》として、それそれの地方の国語中における、問題の語系要素の百分率を取ってみる事も一つの穏当な試験的方法であろうと考えられる。そしてこれは必ずしも不可能な事とは考
前へ
次へ
全37ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング