えられない。
もちろん語根は言語のすべてではない、語辞構成や措辞法もまた言語の要素として重要である。これらをいかにして「分子」に分析するかはかなりむつかしい問題ではあるが、少なくも原理の上からはそれも不可能な事とは思われないのである。
以上のような漠然《ばくぜん》たる想像――もちろんこれは今のところただ一つの想像に過ぎない――に刺激されて、まず手近なマライ語の語彙《ごい》に目を通す事を試みた。そうしてこの国語と邦語との類似のはなはだしいのに驚かされた。自然現象や動植物の名称などはそれほどでもないが、形容詞と動詞において特に著しい類似のあるらしい事を感じた。おもしろい事には、今日わが国一般に行なわれているきわめて卑俗な言語や、日本各地の方言と肖似する現行マライ語も少なくない。また試みに古事記をひもといて古い日本語を当たってみると、たとえばその中の歌詞――最も古い語の保存されているらしい――に現われたむつかしい語彙などが、かなりにもっともらしく、都合よくマライ語で説明され、また古代神名や人名などにも、少なくも見かけの上でもっともらしく付会されるものが存外多いのに驚かされた。滑稽《こっけ
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