これを時間tに対して積分する事になるであろう。また中心が空間的に分布されて存在すれば、さらに空間的の積分が必要になる事はもちろんである。
このような考えを実際の場合に応用して具体的の数量的計算をする事は、今のところ、不可能であり、またしいてこれを遂行しても、その価値は疑わしいものである。しかし、ただ、以上の考察の中に含まれた根本の考えがいくぶんでも実際の問題に触れたところがあるとすれば、右にあげた数式によって代表された理想的過程の内容とその結果とは、またいくぶんか実際の言語の拡散過程、ならびに時間的空間的分布の片影を彷彿《ほうふつ》させるくらいのものはあるであろうと思われる。
もしもこの考えがいくらか穏当である事を許容するとすれば、そこからいろいろな、消極的ではあるが、だいじな事がらが想定される。すなわちまず世界じゅうで互いに遠く隔たった二つの地点に互いに類似した言語が存在し、その中間にはその連鎖らしいものが見つからない場合があっても、それだけでは、それが必ず偶然の暗合であるとは断定されなくなる。またある甲地方の古い昔の言語が今でも存し、あるいは今はその地に消滅していて、その隣国民
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