は小笹《おざさ》生い茂りて土すべりがちなるなど雑鬧《ざっとう》の中に幽趣なるはこの公園の特徴なるべし。西郷像の方へ行きたれども書生の群多くてうるさければ引きかえしパノラマ館裏手の坂を下る。こゝは稍《やや》静かなれど紅塵ようやく深く鉄道構内の煤煙風に迷うもうるさし。踏切を越えて通りかゝりし鉄道馬車にのる。乗客多くて坐る余地もなければ入口に凭《もた》れて倒れんとする事幾度。公園裏にて下り小路《こうじ》を入れば人の往来織るがごとく、壮士芝居あれば娘|手踊《ておどり》あり、軽業カッポレ浪花踊《なにわおどり》、評判の江川の玉乗りにタッタ三銭を惜しみたまわぬ方々に満たされて囃子《はやし》の音ただ八《や》ヶまし。猿に餌をやるどれほど面白きか知らず。魚釣幾度か釣り損ねてようやく得たる一尾に笑靨《えくぼ》傾くる少年帰ってオッカサンに何をはなすか。写真店の看板を見る兵隊さん。鯉に麩《ふ》を投ぐる娘の子。凌雲閣上《りょううんかくじょう》人《ひと》豆のごとしと思う我を上より見下ろして蛆《うじ》のごとしと嘲りし者ありしや否や。右へ廻れば藤棚の下に「御子供衆への御土産一銭から御座ります」と声々に叫ぶ玩具売《おもち
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