を重ねなければなるまいと思われる。現にそうした経験を今日われわれは至るところに味わいつつあるのである。
 そうはいうものの、日本人はやはり日本人であり日本の自然はほとんど昔のままの日本の自然である。科学の力をもってしても、日本人の人種的特質を改造し、日本全体の風土を自由に支配することは不可能である。それにもかかわらずこのきわめて見やすい道理がしばしば忘れられる。西洋人の衣食住を模し、西洋人の思想を継承しただけで、日本人の解剖学的特異性が一変し、日本の気候風土までも入れ代わりでもするように思うのは粗忽《そこつ》である。
 余談ではあるが、皮膚の色だけで、人種を区別するのもずいぶん無意味に近い分類である。人と自然とを合して一つの有機体とする見方からすればシナ人と日本人とは決してあまり近い人種ではないような気もする。また東洋人とひと口に言ってしまうのもずいぶん空虚な言葉である。東洋と称する広い地域の中で日本の風土とその国民とはやはり周囲と全くかけ離れた「島」を作っているのである。
 私は、日本のあらゆる特異性を認識してそれを生かしつつ周囲の環境に適応させることが日本人の使命であり存在理由であ
前へ 次へ
全48ページ中46ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング