の幅員を制限したというとがめを受けなければならないかもしれない。しかし、それはやむを得ないことであった。ちょうど日本の風土と生物界とがわれわれの力で自由にならないと同様にどうにもならない自然の現象であったのである。
 地理的条件のために長い間鎖国状態を保って来た日本がようやく世界の他の部分と接触するようになったのは一つには科学の進歩によって交通機関が次第に発達したおかげであるとも見られる。実際交通機関の発達は地球の大いさを縮め、地理的関係に深甚《しんじん》な変化を与えた。ある遠い所がある近い所よりも交通的には近くなったりして、言わば空間がねじれゆがんで来た。距離の尺度と時間の尺度もいろいろに食いちがって来た。そうして人は千里眼順風耳を獲得し、かつて夢みていた鳥の翼を手に入れた。このように、自然も変わり人間も昔の人間とちがったものになったとすると、問題の日本人の自然観にもそれに相当してなんらかの変化をきたさなければならないように思われる。そうして、この新しい日本人が新しい自然に順応するまでにはこれから先相当に長い年月の修練を必要とするであろうと思われる。多くの失敗と過誤の苦《にが》い経験
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