ベリアの一地方でコムスというのは、ふくれた胴に皮が張ってあるが、弦は二本で五度に合わすとある。振るっているのはホッテントットの用いる三弦の弦楽器にガボウイというのがあり、ザンジバルの胡弓《こきゅう》にガブスというのがある。また一方では南洋セレベスにある金属弦ただ一本のカボシがある。それからまたアラビアの四弦の胡弓にシェルシェンクというのがあるのも妙である。
(尺八) シナの洞簫《どうしょう》、昔の一節切《ひとよぎり》、尺八、この三つが関係のある事は確実らしい。足利《あしかが》時代に禅僧が輸入したような話があるかと思うと、十四世紀にある親王様が輸入された説もある。そうかと思うと『源氏物語』や『続世継《ぞくよつぎ》』などに尺八の名があり、さらに上宮太子《じょうぐうたいし》が尺八を吹かれたという話がある、シナには唐あたりの古いところにもとにかく尺八の名がある。しかしそれらの名前に相応する品物がどこまで同一のものであったかはわからない。長さが一尺八寸あるいは八分だから尺八だというというのはいかにももっともらしいが、これには充分疑う余地がある。ある書に尺八を十二作ったが長さがいろいろあると書いて
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