ある。正倉院《しょうそういん》の尺八は一尺一寸以下八種あるそうである。事によるとこの尺八は音の高度を示すものかもしれない。
 蘭領《らんりょう》インドの島にシグムバワという笛があり。サモアにシヴァオフェという竹笛がある。
 ペルシアのした[#「した」に傍点]笛にシャクというのがある。またラッパ、むしろトロンボンの類でシャグバット(英)サクビュト(仏)サカブケ(西)なども事によると何か縁があるかもしれない。
 ヒトヨギリは「一節切《ひとよぎ》り」に相違ないだろうが、これがヒチリキの子音転換とも見られるのがおもしろい。またポーランドのピスチャルカと称するものは六孔の縦吹きのした[#「した」に傍点]笛であるが、この品物自身もその名前とともにヒチリキに類するのが不思議である。
 南洋のソロモン群島中のある島に存する竹製の縦笛にププホルと称するのがある。長さ五五・四デシメートルとあるのを換算するとまさに一丈八尺強、恐ろしく長いものである。ただ穴が三つしかないらしい。このププホルと『徒然草《つれづれぐさ》』のいわゆるボロボロとを並べて考えてみるとだれでもちょっと微笑を禁じ難いであろう。
(胡弓《こ
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