三絃考《まつのやさんげんこう》』を見ただけでもたくさんな文献が並べ立ててあるが、いっこうに要領を得難い。永禄《えいろく》あるいは文禄《ぶんろく》年間に琉球《りゅうきゅう》から伝わった蛇皮線《じゃびせん》を日本人の手で作りかえた、それがだんだんポピュラーになったものらしい。それからシナの楽器の阮咸《げんかん》と三味線とが同一だとか、そうでないとかいう議論がある。また、元《げん》の時代のかの地の三弦一名コフジ、一名コフシ、一名クヮフシ、一名コハシなど称するものと関係があるような、またないようなことも書いてある。またこのゲンカンは竹林七賢人の一人の名だとの説もある。
 ところがちょっと妙なことには、このゲンカンの文字を今のシナ音で読むとジャンシェン[#「ジャンシェン」に傍点]となるのである。またこのコハシあるいはコフジに相当するものと思われる類似の楽器の類似の名前がヨーロッパ、アジア、アフリカ、南洋のところどころに散在しているのが目につく。たとえばリュート類似の弦楽器として概括さるべきものに、トルコのコプズ、ルーマニアのコブサ、またコブズ、ロシヤ、ハンガリーへんのコボズなどがある。それからシ
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