性に関する諸問題に意外な曙光《しょこう》をもたらすようなことにならないとも限らない。従来はただ二つの物質間の摩擦係数さえ測定されればそれで万事が解決したと考えられていたようであるが、分子物理学の立場からすれば摩擦の問題はまだほとんど空白として残されているようである。もっとも最近における物質表面層の分子状態に関する研究の成果にはかなりに目ざましいものがあるから、遠からず、私の金だらいの場合や靴底《くつぞこ》の場合に対しても、いくらか満足な解釈が得られるであろうと期待される。しかし私の希望するところはだれか日本人でこの方面に先鞭《せんべん》をつけてくれる人があればいいと思うのであるが、日本ではたいてい西洋の学者がまずやり始めて、そうして相当流行問題になって来ないと手を着ける人が少ないようであるから、まず当分はこれらも例の「ばからしい問題」として、私の洗面台とそうして東京の街路の上に残されることであろう。
近ごろネーチュア誌を見ると、コップにビールをつぐ時にビールの泡《あわ》が立つ、その泡の多少を決定する条件が問題になっていて、そうしてその条件中にコップ表面に存する油脂皮膜も問題になってい
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