日常身辺の物理的諸問題
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)逢着《ほうちゃく》する

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)物理学|文献抄《ぶんけんしょう》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「さんずい+卯」、第4水準2−78−35]
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 毎朝起きて顔を洗いに湯殿の洗面所へ行く、そうしてこの平凡な日々行事の第一箇条を遂行している間に私はいろいろの物理学の問題に逢着《ほうちゃく》する。そうしていつも同じようにそれに対する興味は引かれながら、いつまでもそのままの疑問となって残っているのである。今試みにその中の二三をここにしるすことにする。
 第一は金だらいとコップとの摩擦によって発する特殊な音響の問題である。普通の琺瑯引《ほうろうび》きの鉢形《はちがた》の洗面盤に湯を半分くらい入れる。そうしてやはり琺瑯引きでとっ手のついた大きい筒形のコップをそのわきに並べて置き、そうしてコップの円筒面を鉢の縁辺に軽く接触させる。そうして顔を
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