行かない。これは好きな人に取っては好きな特徴となるに相違ない。しかしこの人のような絵はじきに行き詰ってしまうような事が無いからその点が頼母《たのも》しいと思う。

 石井氏の絵は、いつも、常識的という評を受けるようである。頭のいい、要領のいい点は、そういうところもあるだろうが、そうばかりとも思われない。一種の淡白な味を味わってみる事は虚心な鑑賞家に取って困難ではないだろう。この人の絵をだんだんに突きつめて行くと、結局マルケエなどのような方面へ行きはしないかという気がする。

 津田氏の日本画は一流のものであるが、今年の洋画はただの一点で、それがあまりに投げやりである。

 鍋井《なべい》氏の絵は少し変ったようである。こういう絵も自分はわりに好きな方ではあるが、ただ変るところまで変る途中にあるような気がした。来年を楽しみにしている。

 横山氏の絵はかなりうまいと思うが、好きにはなれない。これは趣味の相違で仕方がない。この人の絵は、とにかく一通り行くところまで行って、行き止まっているような気がする。こういうたちの絵は、じきにそういう風になりやすい。一体に表現的な芸術はそうだろうと思う。絵
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