接合をすっかりハンダで付けさせようと思ったが前の電気屋はとうの昔どこかへ引っ越していなくなったし、別のに頼んでみるとめんどうくさがって、そしてハンダ付けなど必要はないと言ってなかなかやってはくれない。
少々価は高くとも長い使用に堪えるほんとうのものがほしいと思っても、そんなものは今の市場ではなかなか容易には得られない。たとえばプラチナを使った呼び鈴などは、高くてだれも買い手はないそうである。これは実際それほど必要ではないかもしれないが、プラチナを使わないなら使わなくてもいいだけにほかの部分の設計ができていないのはどうも困る。
私の頼んだ電気屋が偶然最悪のものであったかもしれないが、ほうぼうに鳴らない玄関の呼び鈴が珍しくないところから見ると私と同じ場合はかなりに多いかもしれない。
もしこんな電気屋が栄え、こんな呼び鈴がよく売れるとすると、その責任の半分ぐらいは、あまりにおとなしくあきらめ[#「あきらめ」に傍点]のいい使用者の側にもありはしまいか。
呼び鈴に限らず多くの日本製の理化学的器械についてよく似た事に幾度出会ったかわからないくらいである。たとえばおもちゃのモートルを店屋でち
前へ
次へ
全14ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング